塩の街
あらすじ
ある日突然東京湾に白い柱が出現した。その日を境に、人間たちは「塩化」するようになる。 いわゆる塩害化が進んだ世界で、政府機能も皆無に近い無法地帯で一人の少女「真奈」と一人の青年「秋庭」が生きる物語。
日々出会う塩害化間近な人々を通して二人の距離が近くなっていく。
そして、ある人物が二人の前に現れることで
やがてこの現象の本質に迫る事になる。
ストーリーやテーマについて
物語の軸は真奈と秋庭の青春ラブストーリー。兄弟みたいな関係から次第にお互いを意識するようになっていく。 塩害化した社会になっても現実を直視できない二人。二人はふとしたことから秋庭の家(マンションの二階)で生活する事になっている。
そんな「非日常の中での「日常」」に塩害化間近の人々が飛び込んでくる。二人は現実を直視せざるを得なくなってゆき、その事がお互いの気持ちを近づけていく。
あくまで世界設定や、塩害化の本体を叩くことは演出的な意味合いが強い作品。ただその発想が面白くて非常に読みやすかった。
序盤は塩害化間近の人々を中心とした短編エピソード的な作り。作品序盤の男性の一人称が主人公じゃない展開が面白かった。
世界観・アイデア
ある日突然東京湾に突き刺さった塩の柱が原因で、次々と人間が塩になってしまうという世界観。
感染するトリガーが塩を見るという所が面白い!
塩は実は生命体で、「見る」ことで感染するという構造になっている(ホラー小説のリングウイルスみたいな感じ?)
小説の中でも話されている通り、この現象は旧約聖書の一説「ロトの妻の塩柱」と類似している。
旧約聖書でソドムとゴモラの滅亡に関連した話で、ロトの妻が神に振り返るなと言われたのに振り返ったために塩柱にされたと言われるもの。
旧約聖書のこのエピソードから、このアイデアを作ったとしたらすごい発想。。。
心に残ったセリフ・キャラクター
秋庭と真奈がお互いのことを上手く表現している
秋庭
真奈「誰かに優しくするとき、怒るんです。そういう人なんです」
元航空自衛隊二等空尉。世間と入江から身を隠すためにか新橋に隠れ住んでいる。 航空戦競会三連覇という自衛隊での伝説的な過去を持つが、真奈は知らない。
真奈との出会いは、真奈が街で襲われているところを助けたから。 理由は「目覚めが悪くなるから」
真奈
秋庭「あいつが拾ってくるもんは飢えて行き倒れ寸前と相場が決まってるんだ。
--- さすがに猫、犬ときて人まで拾ってくるとは思わんかったが」
両親を亡くし襲われそうになったところを秋庭に助けられて女子高生。 外見は大人しめで、優しく一途な性格の持ち主。弱いものを放って置けない。 見た目や最初の印象とは別に「意外な」一面も持っている。
意外と度胸のある性格
銃口を突きつけている入江に対して、隙を見つけて脇をくすぐるという手段に出る。 緊張感がないのか肝が座っているのか...。
意外と物事をしっかり見ている
真奈「歩き方も変でした。本当はもう、足の裏、ずるずるでしょ」
そうそうごまかしたって無駄無駄ーーと、秋庭は内心で肩をすくめた。ぼんやりしているようで意外としっかり見ているのだ。 この娘は
意外と頑固な性格
叱り付けたら猫と共に家出した。
困ったことは、こういう性癖を自分のことで出したことは一回もないことだ。
やっぱり優しい
ーーーあのね、優しくしてほしかったら、優しくしてって言わなきゃだめですよ。
自分を人質にしていた男に対するセリフ
入江慎吾
人間の塩害化の謎をしる人物。この人物の登場によって二人は世界を救うプロジェクトに巻き込まれてゆく。
「世界とか、救ってみたくない?」
「僕の性格もう忘れたの? 手段は選ばないよ、何かにつけ。こんなカワイイ弱点、身近に置いとく方が迂闊だね。」
天才的な頭脳を持つが、研究のためなら手段を選ばない。だが彼なりの信念がある。 普段は秋庭をからかうような人を食ったような話し方をする。
以下小説序盤で登場するキャラクター
二人の存在が、秋庭と真奈の関係に決定的な影響を与える。
谷田部 遼一
塩になってしまった恋人をリュックにつめて海を探していたところを、真奈に拾われた登場人物。
今の恋人とは本来は単なる友人関係であった。
たが彼女の塩害化が進むにつれ、お互いの気持ちを告白し恋人関係になる。
遼一自体はこんな世界にならなかったら今でも友人関係だったと、儚げに笑う。
トモヤ
遼一を海に送り届けた帰路で遭遇する囚人。
真奈を人質にとり、彼らのマンションに上がり込む。
真奈をかつての想い人と重ね、最後の時を迎える。彼も塩害化が進行した状態であった。
秋庭を挑発するために真奈にする愚行は、まるで秋庭を試しているかのようだった。
まとめ
ある日から急に世界が変わる世界観のテンプレ。塩になるという発想とその悲しさ。 「見る」ことで感染するという発想。をもとに、最初に塩になってしまった恋人をリュックにつめ海を目指す青年から始めるところが上手い。出だしが上手いんだよな〜〜こういう方法もあるんだなと。
謎の吸引力と切なさの相乗効果。その世界観の中で二人の心情が鮮やかに描かれている作品でした。